入試における根拠資料と「検査実施者への助言(College Board)」翻訳

以下の文章は、College Boardの「Advice for Evaluators」を筆者が翻訳したものです。受験生がCollege Boardが実施する試験で合理的配慮を求める際に、添付して提出が求められる根拠資料が満たすべき基準について、手引きが示されています。米国のCollege Boardは、日本でいうところの共通テスト(大学入試センター)のような「SAT」という試験などを実施・運営している団体です。

私自身、研究および実践テーマの関係から、さまざまな障害のある受験生の根拠資料を目にすることがあります。しかし、残念ながらこれらの基準を満たさない根拠資料ばかり、といっていい状況です。そうした根拠にならない資料や診断書が添付されてしまうと、受験生本人にとって、本当は必要だった配慮が得られなくなってしまいます。

共通テストや資格試験などの大規模な入試では、配慮申請を行う受験生の数も非常に多いことから、試験を実施する側が、対面で受験生一人一人の配慮の必要性を現認できない場合がほとんどです。そのため試験実施者側は、提出された根拠資料の内容でしか、リクエストされた配慮内容の合理性を判断できないという制限があります。

合理的配慮として入試でもさまざまな便宜が図られるようになった今、検査者の方は、ぜひ以下と前回の記事に掲載した翻訳も参考に、丁寧な所見作成を心がけていただければ幸いです。他にも、「エッセンシャルズ 心理アセスメントレポートの書き方 第2版(日本文化科学社刊, 2023年)」も優れた書籍で、適切な所見を作成する際におすすめです(特に11章のケースリポート)。

合理的配慮の定義には、障害者権利条約によれば、「必要かつ適当な変更及び調整」であるという定義が含まれています。入試などの競争的な場面では特に、この「必要性」の判断を行う際に、本人の医学的な疾患や機能制限の状況が、客観的に記述され、またそれが「求める変更及び調整」の必要性を具体的に示した資料(根拠資料)が必要とされがちです。

以下の文章でも、「障害(disability)」という単語は、その書きぶりから、受験生本人側の医学的な障害の状況を意味していると読み取れます。その点で、障害の社会モデルの観点からの「障害(disabilty)」を意味しているわけではない点に注意が必要です。合理的配慮の必要性や適当性を判断するのに、関係者の合意形成のためにこうした医学的な資料が必要とされるところにはジレンマがあります。しかし、特に競争的な場面や、実施の過重性が問われる場面では、根拠資料の存在とその内容は、望むアコモデーションを得る上で、大きな影響を持っていることは紛れもない事実です。

受験生に対して、こうした根拠資料の作成を支援する社会資源は日本では限られています。私たちのDO-ITの活動の中では、スカラーに根拠資料の作成をバックアップすることも続けています。最近は、地域の教育センター等がそうした役割を担ってくれるケースも出てきているようです。そうした社会資源が多くの障害のある受験生にとって、手の届くところにあることを願います。

(以下、翻訳)


検査実施者への助言

College Board の試験でアコモデーションをリクエストすること(そしてそれらのアコモデーションの必要性に関する根拠資料を作成すること)は、学校や州にリクエストする際のプロセスとは異なる場合がある。根拠資料のガイドラインを注意深く読み、診断名を記載しただけの一般的なレターがあるだけでは、通常、不十分であることに注意すること。

手引き

1. 以下の基準に適う根拠資料を作成すること

合理的配慮の適格性を判断するために、College Boardは以下の点を確認する:
(1)(訳註:検査者は)その障害を書面(根拠資料)として示すことができているか?
(2)その障害は、試験への参加に影響を与えるものか?
(3)要求されたアコモデーションは、必要性があるといえるものか?

2. 適切かつ詳細な書類を提出すること

根拠資料は、生徒個々人について、以下を含む、詳細かつ説明的なものでなければならない:

  • 具体的な診断情報(検査得点、目視による評価、または詳細な医学的情報など)。
  • ナラティブ情報(生徒の障害の既往歴と、その障害が生徒のアコモデーションの必要性にどう影響しているかを説明するもの)。
  • その障害の機能的インパクトに関する情報(症状の頻度、持続時間、強さなど)。
    一般的に使用される診断テストを参照すること。

3. 根拠資料が最新ものであることを確認すること

可能な限り、最新版の検査を用いて評価結果を報告すること。また、場合によっては、生徒の障害の変化を反映させるために、更新(完全に再検査するのではない)が必要になることもありうる。

以上